東京高等裁判所 昭和44年(ラ)221号 決定
よつて案ずるに、抗告人は先ず本件建物に対する根抵当権者としてこれが妨害をなす相手方に対する妨害排除、予防請求権を被保全権利として本件仮処分申請に及んだというのであるが、根抵当権は設定者が占有を移さないで債権の担保に供した不動産につき他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける一の価値権たるにとどまり、抵当不動産の使用収益はもちろんこれを占有する権利をも包含するものではないから、たとえ競売開始決定後第三者が設定者から抵当不動産を買受けこれを更に他の者に賃貸したとしても、それによつて抵当不動産そのものを毀損しその交換価値を減少させ、その結果被担保債権を担保する力に不足を来すというような特別の事情が存しない限り、根抵当権を侵害するものとはいえず、従つて根抵当権者に右第三者に対する妨害排除、予防の請求権が生ずるものとはいえないところ、抗告人の主張によれば、単に相手方は本件建物に対する競売開始決定後設定者である訴外有限会社明星から本件建物を買受け、右建物のうち地下一階、一階および二階を訴外山田正男なる者に賃貸すべく準備中であるというにとどまり、右の特別事情の存在につき何ら主張もせず、またその疎明もないのであるから、未だ相手方において本件根抵当権を侵害したものとはいえず、従つて抗告人に相手方に対する妨害排除、予防の請求権が存するとすることもできない。されば右の妨害排除、予防の請求権を被保全権利とする抗告人の本件仮処分申請が許されないことは明らかである。
次に抗告人は競落許可決定後代金納付前の地位に基き本件仮処分申請に及んだというのであるが、抗告人は競落代金を納付しない限り未だ本件建物の所有権を取得せず、従つてその引渡請求権も有しないのであるから、かような地位にある抗告人が本件建物の買受人たる相手方に対して仮処分申請をすることは許されないといわなければならず、このことは他面抵当不動産に対する競売開始決定があつたときはその不動産に対する差押の効力を生じ、その所有者はその不動産に対する処分を禁止されるが、所有者がこれに違反してその不動産を処分しても、単に競売申立人および競落人に対抗することができないとされているにすぎないこととの権衡上からしても明らかである。
(浅沼 岡本 田畑)